〈注〉『今、憲法を考える会通信 No1』には、小田原紀雄氏の「百万人署名運動への永訣宣言」とともに、藤本治氏の「私は百万人署名運動の呼びかけ人を辞めます」が掲載されている。

私は百万人署名運動の呼びかけ人を辞めます

とめよう戦争への道! 百万人署名運動・事務局殿

 今夏《8・6 ヒロシマ大行動》の方針は、教条主義的なアメリカ帝国主義像に固執してオバマ米国大統領のプラハ演説の趣意を理解しない点で、明らかに間違っていると私には感じました。それ故例年行っていたカンパを今年は取りやめました。  ところが、8・22全国連絡会活動者会議についての川添氏の報告では、このヒロシマ大行動の方針選択は、百万人署名運動事務局および各地域連絡会の不一致というより対立といってよい情況の中での、百万人署名運動事務局の一方の側の方針選択そのものであったと読み取れます。  そして全国通信第142号の紙面にも如実にこの方針が反映されているので、これは百万人署名運動が公式にこの方針に沿って展開されると顕示しているごとくに見えます。  私は、この方針は、全世界の民衆との連帯を目指すべき市民運動として、基本的に誤りである、とあらためて確認します。  一切の市民運動、とりわけ反戦・平和の市民運動は、たった一人の訴え、たった一人の提言にも耳を傾け、良心を以ってそれに応えるのが原点です。政党・政派のイデオロギーや教条にとらわれないところに市民運動の基本的な性格があります。  オバマ米国大統領のプラハでの核廃絶宣言に私は一人の人間の良心の声、はじめて言葉として表出された誓願のごときものを感じ取ります。一人の黒人、黒人であるアメリカ市民の、新しい米国大統領となった、その立場に立っての誓約として聞き取ります。かつて公民権運動の指導者であった、M・L・キング牧師の苦と夢とがない交ぜになった、あの訴えに重ねるようにして聞くのです。青年時代にオバマが愛読したという南アのネルソン・マンデラやアルジェリア解放戦線の理論的指導者だった精神科医フランツ・ファノンや、さらにはアウシュビッツの証言者ユダヤ人プリーモ・レーヴィの叫びに木魂するオバマの良心の応えとして聞くのです。  戦争と平和をめぐる世界史的問題情況は、今大きく変わろうとしています。プラハ宣言の意味はその動向の中で決定づけられるでしょう。  今年8・22全国活動者会議への提案の中で、川添氏は、「オバマが口先で何を言おうと、アメリカ帝国主義であるかぎり戦争をエスカレートさせていく以外にありません。」と述べています。教条主義的でかつ恣意的な断定の一典型です。事実認識のリアリズムからすれば、「帝国主義国アメリカに住み、その暮らしの中で平和と人権の確かな道を模索する人々の共通の意思が黒人大統領オバマを誕生させた」というべきでしょう。  川添氏流の論法からすれば、十五年戦争期の日本、あるいは総じて近代の日本は、「日本が帝国主義であるかぎり戦争をエスカレートさせていく以外にはありません」といとも簡単に断罪され、それでおしまいということになりかねません。しかし民衆にとって大事なのは、その帝国主義日本に暮らしていて、投獄されたり拷問で痛めつけられながら反戦・平和を叫び続けた先達の思想的伝統を受け受け継ぐことです。イデオロギーによる恣意的断罪は気楽にできますが、運動の発展にとってはまったく不毛です。  以上の理由から《とめよう戦争への道!百万人署名運動》の呼びかけ人であることを本日限りで私は辞めます。

2009年10月11日
静岡大学名誉教授  藤本 治

今、憲法を考える会・通信 No1  2009年10月25日
ピスカートル
PISCATOR…漁をする人
今、憲法を考える会
発行人 小田原紀雄
連絡先 東京都新宿区西早稲田2−3−18
   キリスト教事業所連帯合同労働組合

※本稿は藤本治さんの許可を得て、掲載させていただきました(見出しは編集部)。

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